小山英之「なんみんフォーラム」理事、上智大学グローバル・コンサーン研究所所員

  1538年、イタリアの厳しい冬は、多くの飢餓、病と死をもたらしました。困憊した人びとはローマに避難し、イエズス会の創立者、ロヨラのイグナチオと同志たちは自分たちの家を開放しました。食物と薪を請い求め、ホームレスを探し出して連れて来て世話をしました。1年のうちには3千人の難民を世話するようになりました。1980年、当時イエズス会の総長であったアルぺ神父は、「何千人ものボートピープルと難民の窮状に強い衝撃を受け、心を動かされ」、コンパッションから1980年11月14日、イエズス会難民サービス(JRS)i を創設しました。それからJRSは31年間、難民たちと共にあり(accompany)、彼ら/彼女らに奉仕し(serve)、彼ら/彼女らの人権を擁護してきました(advocate)。
  JRSは現在、南アフリカ地域、東アフリカ地域、西アフリカ地域、アフリカ大湖地域、北アメリカ地域、ラテンアメリカ・カリブ地域、ヨーロッパ地域、東南ヨーロッパ地域、南アジア地域、アジア太平洋地域の全世界10地域、50カ国以上の国々で難民支援のためのさまざまな国際的活動を行っています。
  上智大学グローバル・コンサーン研究所が2010年に訪問したケニアのカクマ難民キャンプでは、JRSはCounseling Program(カウセリング)、Mental health Program(精神衛生)、Safe Haven (暴力に苦しむ女性を保護する場)、Education Program(教育)などのプログラムを提供しています。イエズス会の前総会長ぺーター・ハンス・コルヴェンバッハ神父は述べています。「JRSは渇ききった難民キャンプで人びとの希望がたびたび危険にさらされているところで希望の種を蒔きます。このことは特に教育を受けられない絶望のうちにある若い難民たちに当てはまります。毎日毎日、来る年も来る年も、生活はますます希望のないものになっていきます。こうしたキャンプで特にJRSは難民たちに希望を与える緊急の奉仕となります。難民たちが自分たちの将来を信じるのを助けるとき、希望は増大していきます。教育と職業訓練に愛の行為が注がれるとき、希望は増大していきます。和解を可能にし、未来に希望を与える知恵によって過去と現在の憎しみは命へと変容していきます。」

難民条約
  難民条約ができたのは1951年、日本が条約に加入したのが1981年でした。その条約で難民は、「人種・宗教・国籍もしくは特定の社会集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるか、そのおそれがあるため、国外におり、国籍国の保護を受けられない者又はそれを望まない者」と定義されています。 しかし、この条約は、歴史の特定の時代に、ホロコーストの犠牲者、共産圏から逃れて来た人々を保護するために創られたものです。 今日、難民たちが置かれている状況が変わり、新しい挑戦を求められています。都市難民が増加し、また自然災害、国家の崩壊、誤った経済政策などの理由で土地を離れざるを得ない人びとも保護できるよう、その定義を広げる必要があります。残念ながら、世界ではますます国境が閉ざされ、見知らぬ人びとに対する敵意が増しています。

日本の難民認定者数等
  日本は、ベトナム戦争後、ベトナム、カンボジア、ラオスから難民を受け入れ、78年から05年までに約1万1千人の定住を認めたものの、「難民条約」に基づく難民認定の申請者総数9,887件のうち認定されたのは577件にとどまっています。
  法務省入国管理局が発表している「平成22年(2010年)における難民認定者数等について」によると、難民申請者数は1,202人(前年比186人減少)(内訳:ビルマ342人、スリランカ171人、トルコ126人、ネパール109人、インド91人、他363人)難民として認定されたのは39人(前年比9人増加、うち13人は異議申し立て手続きによる認定)(内訳:ビルマ37人、他2人)、人道配慮による在留許可数は363人(内訳:ビルマ356人、他7人)となっています。これは欧米と比較して、2009年アメリカ19,800人、カナダ11,154人、イギリス9,693人、ドイツ8,115人、フランス7,924人、イタリア2,230人の難民受け入れ状況を見れば日本の難民認定率がいかに低いかがわかるでしょう ii 。
  2010年、日本政府は、第三国定住難民受け入れのパイロットプログラム iii をスタートさせ、母国を逃れてタイのメラ難民キャンプに滞留していたビルマ難民5家族27人(カレン族)を受け入れ、2011年度も26人6家族を受け入れたことは一つの進歩と言えますが、多くの課題を残しています。一昨年「第三国定住制度」に基づく第1陣として来日し、千葉県内で農業実習を受けていた2家族は、支援側との意志疎通不足もあり、東京都内に引っ越すということもありました(2012年1月14日毎日新聞)。

なんみんフォーラム(Forum for Refugees Japan-FRJ)
  イエズス会社会司牧センターの移民デスクは、外国人のための無料法律相談iv 、足立インタ―ナショナル・アカデミーv を通しての奉仕に加えて、難民たちの支援、権利の擁護のためにはより広いネットワークの中で活動する必要から日本で暮らす難民を支援するNGOのネットワーク「なんみんフォーラム」 に2年前から参加しています。
  法務省入国管理局も、難民保護を推進する民間支援団体である「なんみんフォーラム」viとの協議を通じて、難民認定手続き、収容、定住・自立支援などに関して具体的な改善点を見いだし、法務省だけでは対応困難な改善策の実現に取り組むようになってきています。
最近の事例では、12月に成田空港で仮放免になったミャンマー難民4人を四ツ谷の難民支援協会が引き取り、カトリック東京国際センターが宿舎、衣類、食糧、携帯電話、テレビの提供を行ない、武蔵関の宿舎近くの女子修道院が日本語学習のサポートをしています。民間の協力によって強制収容の代替措置が可能となるよう期待しています。
  イエズス会社会司牧センターはこれからも、世界のイエズス会難民サービスとのつながりのうちに、日本のなんみんフォーラムのメンバーとして活動していきます。さらにつけ加えるならば、1年前に上智大学内に「ソフィアなんみんサービス」という学生団体を形成し、学生を巻き込んでの具体的な難民とのかかわり方を模索しています。

i http://www.jrs.org.au/
ii 日本の難民については、「難民支援協会」のホームぺージ、『難民への旅』(山村淳平著、現代企画室、2010年)などをご参照ください。
iii 『難民研究ジャーナル』第1号2011、難民研究フォーラム。
iv 外国人のための無料法律相談(社会司牧通信162号)
v 足立インタ―ナショナル・アカデミー(社会司牧通信146号)
vi http://frj.or.jp/